ステンレスの話
ステンレスは、「Stain(さび)+less(少ない)」という名の通り、さびに強い鉄の合金として生まれました。またさびにくいだけでなく、鉄よりも強度があり、熱に強いことや酸や塩などへの耐食性が高い性質を活かしてさまざまな用途に使われています。
キッチンに立って料理をすれば、包丁やフライパン、そして流しもステンレス製です。蛇口をひねるとステンレス製の管を通って水が出てきます。出かける時に触れる扉の丸いドアノブもステンレスかもしれません。枚挙にいとまがありませんが、ステンレスはかほどに身の回りにあふれているのです。
日本でのステンレス生産量は年間で約350万トンと言われています。身近な金属のひとつ、ステンレスの生涯を追っていきましょう。
さびに強い鉄・ステンレス
鉄というと強固なイメージですが、実際には不安定な物質で、水や酸素と反応してもともと地球上に存在していた形に戻ろうという性質があります。鉄をさびから守るには表面を空気や水分と遮断する必要があります。塗料やメッキがその代表的な方法です。
さて、鉄にクロムを12%以上添加すると、空気中の酸素と結合して、金属の表面に極めて薄い膜(不動態皮膜)を瞬時につくりだす性質をもつようになります。傷をつけてもこの膜は瞬時に再生され、クロムの割合を多くするほどにこの膜はより安定します。ステンレスのさびにくさはクロムのおかげなのです。
クロムの使用用途の95%はステンレスなどの特殊鋼向けですが、意外なところでは顔料にも利用されています。美術の教科書でおなじみ、ゴッホの「ひまわり」。目を引く鮮やかな黄色には、「クロムイエロー」という名がついています。クロムと鉛の化合物であり、ゴッホが好んで使ったそうです。日本語では「黄鉛」と呼び習わしています。
ふたつのステンレス
さびに強い、とはいえ酸性の液体や海水などの塩分を含む水がかかる場所などの厳しい環境下では負けてしまうこともありました。試行錯誤のすえ、鉄にクロムのほかにニッケルを加えることで表面の膜をより強化できることが判明し、より腐食に強いステンレスが出来上がりました。
お手持ちのステンレス製品をよく見てみると、「18 STAINLESS STEEL」や「18-8」などと刻印されているかもしれません。これはクロムとニッケルの含有量を示し、クロムーニッケルの順で表記されています。18-8であればクロムが18%、ニッケルが8%含まれているということです。
ここではクロムのみを含むものをクロム系ステンレス、クロムとニッケルを含むものをニッケル系ステンレスと呼ぶことにします。
ステンレスの発見
ステンレスの発見は偶然の産物であったという逸話があります。1913年、イギリスの学者H・ブレアリーが小銃や大砲向けの合金の開発をしていた際に、スクラップ置き場に捨ててあった出来損ないの合金の中から不思議とさびが発生していない金属を発見しました。成分を分析してみると、クロムを13%以上含む金属はさびにくい傾向にあることがわかりました。これをもとに食卓用ナイフを試作し、「ステンレス」と愛称をつけたということです。ちゃっかり商標登録を済ませたのはいうまでもありません。
ステンレスの特徴
ステンレスはさびに強いだけではありません。ステンレスの持ち味と、実際に身の回りで使われている例を紹介しましょう。陰に陽に、活躍していますね。
- 耐食性
- 鉄よりもさびに強く、屋外や沿岸部などの過酷な条件下で使用される。
- 磁性をもたない
- ニッケル系ステンレスは磁石に付かない。この性質を利用して医療用機械(MRI)やリニアモーターカーに利用される。
- 熱を伝えにくい
- 熱が伝わりにくい、つまり保温性に優れるので、浴槽や魔法瓶に使用される。一方で鍋やフライパンに利用すると焦げやすいという欠点をもつ。
- 電気を通しにくい
- 銅の60倍以上、鉄の4倍以上の電気抵抗をもつ。
東京都水道局は困っていた。消費する水全体の20%が漏水によって失われていたのだ。給水管は現場での加工性に優れた鉛が使われてたが、その柔らかさが裏目に出て、地中に埋めた管が振動や地盤沈下、地震などによって変形してしまうのが原因だった。そこで、1980年代からさびに強く、塩素への耐食性に優れたニッケル系ステンレス製の給水管に切り替えた。工事は24年続いたが、それによって漏水率は2%まで低下したのだった。
ステンレスができるまで
鉱石を精製することでできるフェロクロムやフェロニッケルを原材料にしてステンレスが作られます。ステンレススクラップも主要な原材料として利用されています。
原材料となるフェロクロムやフェロニッケルを溶解させる電気炉は、3,000℃以上にもなる電気のアーク熱を利用するものです。また、電気炉以外にも製鉄メーカーでは普通鋼に使用する転炉(精製炉の一種)を用いて電気エネルギーを利用せずにステンレスを溶解することで製造コストを抑える方法をとることもあるようです。
鉱石の産出国
ステンレスの原料となるクロムやニッケルは日本では産出されず、海外からの輸入に頼っています。またクロムもニッケルもレアメタルの一種であり、とりわけニッケルは投資の対象になっており、価格変動リスクのある鉱物資源です。
クロムも立派なレアメタル
同じレアメタルといえども、ニッケルのほうがずっと高値(高騰時はクロムの約17倍!)で取引されています。それゆえ、クロム系ステンレスとニッケル系ステンレスでは値段が大きく異なってきます。
生産国と消費国
鉱石を精錬してステンレスの原料となる一次ニッケルが作られます。ステンレスに用いられるニッケルを通して、ステンレスがどこで生産され、どこで消費されているのかを紹介します。鉱石の産出国とは異なる分布が見て取れます。
ステンレスの生産量や消費量のデータが存在しないため、一次ニッケルの需給をおおよそのステンレス需給動向の目安としました。一次ニッケルとは鉱石を精錬・製錬し、メーカーなどが使用できる形態になったものです。一次ニッケルの中でも、フェロニッケルはニッケル系ステンレスの需給動向にほぼ連動すると言われています
ステンレスのリサイクル
日本のステンレス生産量は年間で約350万トンを数えます。これは東京スカイツリーに換算してなんと約97個分です。毎年これほどのステンレスが私たちの身の回りに蓄積されているのです。
ステンレスの耐用年数は鉄よりも長いと言われていますが、いつかは製品としての寿命を終えて廃棄されます(老廃スクラップ)。老廃スクラップはリサイクルのルートに乗せれば、再びステンレスとして生まれ変わります。
ニッケル系ステンレス製品はさびにくく、他の金属との区別が容易であり、かつ金属としての価値が高いため積極的に回収・再利用されています。ある推計によると、ニッケル系ステンレスの回収率は95%とされており、極めて高水準です。他の金属のリサイクル率と比べてみると、鉄は60%、銅は64%といわれています。
回収されたニッケル系ステンレスは新たなステンレスの原料として利用されます。新品のステンレスに占めるスクラップの割合は60%を超え、スクラップを利用するのが前提となっていることがうかがえます。
国際状況によって価格が乱高下するニッケルの性質を考えると、リサイクルの重要性は今後ますます高まっていくことでしょう。
リサイクルに貢献する鉄くず屋
金属スクラップは資源として新たな製品に生まれ変わるとはいえども、まずはリサイクルのルートに乗らなければ始まりません。手軽に金属スクラップをリサイクルする第一歩として、スクラップ収集業・通称”鉄くず屋”を利用する方法があります。
弊社もステンレス製品はもちろんのこと、鉄やアルミ、銅などの各種金属をリサイクルする一端を担っています。お持ち込みいただければ貴重な資源として買い取りすることも可能です。ゴミとしてではなく資源として活かすことでリサイクルに貢献してみてはいかがでしょうか。
不要なステンレス製品があったら、ひらつねへ持って行こう! >>>
<参考文献>
- ニッケル協会『ニッケル誌』2014年3月号
- 独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構『鉱物資源マテリアルフロー2013 ニッケル(Ni)』