アルミの話
ベースメタル(埋蔵量・産出量が多く、製錬が比較的容易な金属)のうち、鉄と同じく身の回りに欠かせない金属、アルミニウム。軽くて柔らかく加工性がよいという特徴があります。一方でアルミの原料となるアルミナは、ダイヤモンドに迫る硬さをもつ、ルビーやサファイアなどの宝石の元であるなどと、調べるほどに興味深い金属です。
ひらつねでもアルミを取り扱っています。アルミがどのように作られ、どのようにリサイクルされているのか、鉄くず屋(文系)目線で調査してみました。
“新時代”の金属
突然ですが、一円玉をお持ちでしょうか? 財布の中に1枚は入っているのでは。一円玉は拾わないほうが経済的、などと軽く扱われがちですが、それほど身近なものなのです。その材質はアルミ(アルミニウム)、今回の主役です。
アルミという金属があるらしい、とその存在が知られるようになったのが17世紀後半。本格的な精錬が始まるのは19世紀後半からです。これは1888年に「ホール・エルー法」という電気分解の方法が確立され、生産性が飛躍的に向上したためです。この電解法は現在でも優れた製造方法として世界中で採用されています。
電解法が確立される以前は金や銀と同じ貴金属扱いを受けるほどアルミは希少なものだったそうです。
アルミの最大の特性は「軽さ」です。比重は鉄の3分の1、チタンの3分の2です。また「錆びにくさ」「強さ」「加工性がよい」「接合しやすい」なども重要な点です。燃費向上などの経済性が求められる自動車では1台あたり100kg以上のアルミ合金が使用されています。
さらに、磁気を帯びない、毒性がない、熱や電気をよく通す、など多くの特性をもつため、宇宙から海上までその用途は実に多岐にわたります。
アルミができるまで
アルミの精錬には鉱石のボーキサイトが必要です。ボーキサイトから中間素材のアルミナが抽出され、電気分解を経てアルミの新地金(金属の塊)が得られます。
ボーキサイトは日本ではほとんど産出されず、後述の理由もあって新地金の生産は他国に任せています。(図表1・2)
日本で1年間に使用されるアルミ地金は約446万トン。内訳を見ると、新地金は約250万トン、再生地金は約195万トンとなっています。これは約4,000トンの東京タワーに換算すると1,100個分にもなります。
鉄(粗鋼)の年間生産量1億700万トンに比べると少ないように感じますが、新地金の消費量では全世界195ヶ国の総消費量の8%をわが国のみで使用しているのです。これは中国、アメリカ、ドイツに次いで第4位です。(図表3)
新地金と再生地金
アルミ地金には新地金と再生地金の2種類があります。
新地金はボーキサイトから精錬したものを指します。精錬時に電気分解を施しますが、この際に膨大な電気が必要です。1トンの新地金を作るために必要な電力や重油などのエネルギーを電力に換算すると約21,100kwh。これは一般家庭5世帯の電気使用量の1年分以上です。そのためアルミは「電気の缶詰」と称されます。
現在、わが国では、ほとんど新地金を生産していません。それはボーキサイトが産出しない以上に、電力コストがネックとなるからです。そのほか、精錬時に発生する「赤泥」の処理にもコストとエネルギーがかかります。
対する再生地金はアルミスクラップから作られます。電気分解はせずに熱で溶かすので、新地金を作る際に比べて極めて省エネルギー、わずか3%で地金を生産できるといわれています。
リサイクルのメリット
このことから、アルミは他の金属と比べて非常にリサイクル性に優れているということが言えます。時としてアルミが「リサイクルの優等生」と呼ばるゆえんです。
わが国で1年間に消費されるアルミ地金は約446万トン(2004年)です。その内訳を見てみると新地金が約57%、再生地金が約43%です。再生地金の国内生産分は全地金消費量の約30%を占めています。(図表4)
1トンの新地金を作る際の消費電力は一般家庭5世帯の1年間分以上に相当します。わが国で1年間に使用する新地金は約250万トン。これだけの新地金を作るには約1,250万世帯が1年間に使用する電力が必要となるのです。
リサイクルには省エネルギーによる温暖化ガス抑制のほか、廃棄物を減らすことで埋め立て地を節約できるなど多くのメリットがあります。
さらに、リサイクルのための資源は主に国内から調達することになります。これはエネルギー価格の高騰、為替の乱高下など国際的な不安定要素の影響を少なくすることにもなります。
日本は資源が乏しい、と常々言われています。世界規模では資源の枯渇が心配されている中で、再生地金の重要性が高まっていくことでしょう。
アルミくずの行方
生産されたアルミ製品は社会の至る場所に使用されています。その備蓄量は一説によると3億800万トンといわれています。
これだけ金属過多に思える環境なのに、実際には金属に埋もれずに生活できているということは、ちょっと不思議なことなのではないでしょうか?
それは、こうした製品にも寿命があり、老朽化や破損して廃棄されることが最大の要因なのです。
もちろん、加工する過程で発生する切削くずや不良品なども定期的に廃棄されるので、工場内がアルミであふれることはありません。
こうして廃棄されるアルミはアルミスクラップ、アルミくずなどと呼ばれています。
わが国では、1年間(2002年)に約78万トンの老廃スクラップ、約52万トンの加工スクラップ、合計約130万トンのスクラップがそれぞれ回収されているといわれています。
使用済みのアルミ製品が老廃スクラップになるので、私たち消費者・生活者の目線では、老廃スクラップがより関わり深いものになります。
或るアルミ缶の一生
ではアルミスクラップがどのように再生されていくのか、私たちの身近なアルミ缶を例に考えてみましょう。
アルミ缶は収集・分別された後にリサイクル工場で溶解されます。再生地金は圧延工場で板状に加工された後に再びアルミ缶の材料となります。一口にリサイクルといえども、多くの工程を経て再び私たちの元へやって来るのです。
わが国のアルミ缶のリサイクル率は94.7%(2012年)と世界でもトップクラスです。回収されたアルミ缶がアルミ缶に生まれ変わる割合は66%ほどです。この差は、再生地金がアルミ缶材以外へ利用されたり、溶解時に発生する溶滓(ドロス)として目減りするからです。
アルミ缶以外にも、アルミサッシや自動車部品、鉄道のアルミ車両など多くのアルミ製品がリサイクルされています。
リサイクルの課題
リサイクルの優等生とはいえ、アルミ全てが再生されているわけではありません。さらにリサイクルを進めるための課題もあります。
- リサイクル歩留まり向上
- 溶解の工程で「ドロス」と呼ばれるアルミ酸化物が発生します。その量は、1年間に約40万トン(アルミ分80%)といわれます。このドロスに所定の工程を加えれば約40〜60%のアルミを回収できますが、それでも不純物を含む大量のアルミ鉱滓が残ります。これらの鉱滓は産業廃棄物として廃棄されています。技術革新が待たれる分野です。
- カスケードリサイクル
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ドロスから回収されたアルミニウムは不純物(合金のために使用された他の金属元素)が含まれます。そのため、下位品質のものに使用されます。
例えばアルミ缶からサッシへ、サッシから製鉄用脱酸素材へと姿を変え、最終的には埋立処分されます。このように段階的に品質を落としながら再利用することをカスケードリサイクルと呼び、厳密にはリサイクルとは言えないのかもしれません。
これに対して、品質を下げずに再生することを完全リサイクルといいます。環境負荷の少なさでは完全リサイクルに軍配が上がります。
リサイクルにおいては不純物をいかに少なく抑えるかがポイントになります。リサイクル率向上のためにも、分別という作業は避けて通れません。
リサイクル率向上のために
私たち個人でも、リサイクルの向上に関われることはあります。
例えば、家庭から排出される家庭ごみや粗大ごみに含まれる金属くず(約162万トン/年)のうち、約40%がリサイクルされず埋立処分されているという推計があります。適切に分別してごみ出しをすれば、アルミとしてリサイクルされる可能性がぐっと高まります。
また、不純物が発生しにくいように、異なる金属同士を分離しやすい形で廃棄するよう配慮することも、リサイクルアルミの品質を維持するのに大切なことです。
ひらつねでは、個人のお客様の金属くずの処分または買取りをしております。家を見渡して、不要になった金属くずの中にはきっとアルミニウムが含まれていることでしょう。放置して朽ちさせてしまう前に、確実なリサイクルのルートに乗せることも再生率向上へ向けた一つの方法と言えるでしょう。
<参考文献>
- 西山孝, 前田正史(2011)『ベースメタル枯渇: ものづくり工業国家の金属資源問題』日本経済新聞出版社.
- 大久保正男(2002)「アルミニウムのリサイクル」,『季刊誌ALUMINIUM』2002年1/2月号
- 経済産業省経済産業政策局調査統計部(2010)「鉄鋼・非鉄金属・金属製品統計年報」